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ペットボトルからラベルが消えると...

=リコーがレーザー技術でプラスチックごみ削減=

2020年02月26日

最先端技術

主任研究員
伊勢 剛

 ナノテクノロジーに関する世界最大級の展示会「nano tech 2020(2020年1月29日~31日)」に出展した約500社の中で、リコーは「ナノマテリアル賞」を受賞した。「室内照明のような微弱な光でも高い発電性能を発揮する固体型色素増感太陽電池」を搭載した環境センサーをはじめ、発電ゴムを利用した振動発電などのユニークかつ先進的な材料技術開発が高く評価された。同社の受賞は2019年の「nano tech大賞」に続き2年連続となる。

写真「nano tech 2020」のリコーブース
(提供)リコー・イノベーション本部

 受賞でにぎわうリコーブースの中でも、循環型社会の実現への貢献が期待される「ラベルレス・ペットボトル」の展示がひときわ注目を集めていた。ペットボトルからラベルが消え、インクも使わないのでリサイクルが容易にできるという。

 ペットボトルを利用する消費者はラベルを剥がす手間がなくなり、プラスチックごみ量の削減をもたらす。一方、飲料品メーカーは環境への配慮アピールできる機会が増える。ペットボトルをリサイクル業者は分別作業者の負担軽減となる。消費者やメーカー、リサイクル業者の3者とも「三方よし」を実現する技術といえそうだ。

 プラスチックごみは長期間にわたり、海中を漂い、海洋を汚染する深刻な社会的課題となっている。このため、海洋プラスチックごみ削減の国際的な枠組みづくりも本格化し始め、2019年6月のG20大阪サミットでは、2050年までに新たな汚染をゼロにする数値目標が定められた。

 プラスチックごみを削減するためには①プラスチック製品を使用しない②プラスチック製品を再利用する③プラスチックをリサイクルし、原材料として再生利用する―などの対応が必要だ。今回紹介する技術が実用化すれば、上記③の対応の中で海洋プラスチックごみの削減という地球規模の課題解決に貢献するはずだ。

 ラベルレス・ペットボトルを実現する技術の最大の特徴は、インクを使わずにレーザーで文字やバーコード、イラストなどが描けることだ。まず、レーザーでペットボトルの表面に1万ナノメートル(=1000分の1センチ)の傷を付ける。髪の毛の太さは100分の1センチ程度なので、その10分の1のわずかな傷を付けるのだ。

 レーザーで傷付いていない部分は光が透過するため、透明に見える。一方、傷付けられた部分は光の散乱によって、白色に見える。こうしてインク無しでも、あたかも印刷物のようにみえるのだ。

写真ラベルレス・ペットボトルの印刷サンプル
(提供)リコー・イノベーション本部

 ラベルレスのペットボトルが実用化されると、リサイクル率の向上が期待できる。PETボトルリサイクル推進協議会の調べによると、日米欧のペットボトルのリサイクル率は日本では85%に達し、米国の21%や欧州の42%を上回る。このリサイクル率が世界的に向上すれば、環境に優しい循環型社会の実現も夢ではない。

 この技術は環境に優しいだけでなく、少量でも対応できる利点がある。印刷と異なり版が不要のため、文字やイラストをペットボトルに1本1本、別々に描くことも可能なのだ。だから限定商品やイベント向けのグッズなどへの活用も期待できる。

 しかしながら、実用化までの前途には高い壁が存在する。ペットボトル製造はスピードが命だからだ。実際の製造ラインでは1分間に1000本程度も生産されている。まだ、そのスピードに追い付いていない。

 技術開発を進めているリコー・イノベーション本部の光システム応用研究センターの平山里絵さんは「レーザーで高速に描くためには、レーザー本体の性能も重要だが、それを電気的に制御し、いかに速く、強く、正確な位置でレーザーを光らせるかがカギを握る」という。だからこそ今までリコーが複合機(MFP)やレーザープリンター培ってきたレーザー高速制御技術が、ここで役立つのだ。

 ラベルレス技術の2022年発売に向け、リコーの開発陣は日々研究を進めている。同センターの今井重明グループリーダーは「飲料メーカー様からは環境に優しい技術として、大きな期待を寄せられている。白色だけでもインパクトがあり、逆に差別化できるという声がある。早期の実用化を目指したい」と意気込みを語る。

 さらに今後はカラー化の技術開発も期待されている。1つの可能性は、リコーが培ってきたインクジェット技術の応用だ。ペットボトルにインクジェットで直接印刷すると、リサイクルに大きな問題があり、日本ではPETボトルリサイクル推進協議会のPETボトル自主設計ガイドラインの中で認められない。しかし、リサイクル工程に支障が出ないよう、インクを簡単に除去できる技術が開発できれば、直接印刷することも夢ではない。

 レーザー制御技術やインクジェット技術など、これまでリコーグループが培ってきて技術を進化させることで、環境に優しい循環型社会の実現に貢献していきたい。


「nano tech 2020」出展のご案内
https://jp.ricoh.com/technology/exhibition/nanotech/

お知らせ:リコー、「nano tech大賞2020」において「ナノマテリアル賞」受賞
https://jp.ricoh.com/info/2020/0203_1/

伊勢 剛

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